「遺産分割調停って、どのように進んでいくの?」
弁護士 吉岡真一
1 はじめに
以前のコラムにおいて、遺産分割を進める上で、実務上、重要な3ステップ(相続人の確定・遺産の確定・分割方法の確定)があるということを説明しましたが、遺産分割調停でも、主に、この3ステップについて、相続人から意見や主張を聞き、順次、整理、調整が行われます。
もっとも、相続人の確定については、裁判所(調停委員会)でも、調停申立ての際に提出した戸籍謄本等で十分に精査し、確認していると思われるので、調停においては、調停委員から「被相続人の相続人は、申立人及び相手方のみでいいですね。」と確認されるのみであることが多いと思います。
2 第1回調停期日について
⑴ 申立人(調停を申し立てた相続人)及び相手方(申立人以外の相続人)は、裁判所が指定した日時(開始時刻は午前10時か午後1時30分が多く、終了時刻は開始時刻の1時間30分後くらいと思います。もっとも、遺産分割調停は、いろいろな意味で困難なことが多いと思われますので、開始後1時間30分を超えて調停が行われることも少なくないと思います。)に裁判所に出向き、受付で来たことを伝えます。担当者から調停室と待合室が告げられますので、待合室で待ちます(待合室は、申立人と相手方とは同室にはなることはないと思います。)。時間になれば、調停委員が、呼びに来ますので、調停委員と一緒に、調停室に向かいます(調停委員は、「〇〇調停室の方」などと呼びますので、申立人や相手方の名前で呼ばれることはないと思います。)。
⑵ 調停室に入ると、調停委員が「調停委員の甲です。調停委員の乙です。よろしくお願いします。」と挨拶し、調停が始まります。
なお、調停は、調停委員2名(及び場合により裁判官)が、申立人及び相手方から、それぞれ個別に事情を聴きますので、調停室に、申立人と相手方らが同席することはありません(もちろん、事案により同席を求められることがありますが、同席を拒否したい場合、その旨を調停委員に伝えれば、その拒否に反して同席を求められることはまずないと思います。)。
⑶ では、第1回調停期日を覗いてみましょう。第1回調停期日は、申立人から事情を聞かれることが多いと思います。
調停委員:被相続人の相続人は申立人と相手方のみでいいですね。
申立人 :はい、間違いありません。
調停委員:遺産は、これだけで間違いありませんか。
申立人 :私が把握している限りでは、これだけですが、他にもあるかも知れません。というのも、相手方は、被相続人と仲が良かったので、預貯金等を隠し持っているかも知れません。被相続人の預貯金はこれだけではなく、もっとあるはずです。
調停委員:そうしますと、預貯金について、相手方に確認する必要がありますね。
申立人 :また、相手方は、相続人から生前、不動産を貰い、そこに住んでいますので、遺産分割の取り分は、私より少なくてもいいような気がします。
調停委員:相手方に特別受益があると主張されたいのですね。
申立人 :(特別受益って何?と思いつつ)はい。それに、相手方は、被相続人の面倒を見ていたので、遺産分割にあたっては、多く貰って当然と言っています。
調停委員:相手方は、寄与分を主張されているのですね。
申立人 :(寄与分って何?と思いつつ)はい。
調停委員:遺産の取得について、ご希望はありますか。
申立人 :被相続人の不動産は私が取得し、預貯金については、2分の1ずつ取得することを希望します。
調停委員:申立人と相手方の法定相続分は、各2分の1ですので、申立人が不動産を取得するとなると、代償金を支払うことが必要となる場合がありますが、それは大丈夫ですか。
申立人 :(代償金って何?と思いつつ)はい。大丈夫です。
調停委員:それでは、相手方からお話をお聞きしますので、待合室でお待ち下さい。
⑷ というような形で、調停は進んでいきます。申立人は、待合室に戻り、そこで、スマホ等を利用して、AI君(私は、このように呼んでいます。)に、「特別受益、寄与分、代償金って何?」と聞く姿が容易に想像できます。
AI君の回答も参考にはなりますが、聞き方によっては回答が異なることもありますので、調停委員から、聞きなれない言葉が発せられた場合、遠慮なく説明を求めるべきです。「特別受益って何ですか。よく分からないのですが」と聞くと(知らないことや分からないことを「分からないから教えて下さい。」ということは結構勇気のいることかも知れませんが、知らないことや分からないことをそのままにして調停を進めることはよくないと思います。)、調停委員はある程度説明すると思います。ただ、何をどのように主張し、どのような資料の提出が必要かなど詳しいことについてまでは説明することは少ないと思います。
⑸ では、申立人が、調停委員に、「特別受益ってなんですか。」と説明を求めたとした場合のやりとりを覗いてみましょう。
申立人 :特別受益って何ですか。
調停委員:相手方は、被相続人から不動産の生前贈与を受けたのですね。このように、被相続人から生前贈与等があった場合、生前贈与により受けた利益のことを特別受益といいます。相続分あるいは相続財産の前渡しと理解していいかも知れません。なお、特別受益については、民法903条に定められていますので、ご確認下さい。
申立人 :相手方が受けた生前贈与が特別受益になると、どうなるんですか。
調停委員:持ち戻しといって、相手方が受けた特別受益分(例えば、贈与を受けた不動産の時価)を、被相続人の遺産に加えて申立人及び相手方の具体的な相続分を算定します。なお、遺産に、生前贈与分を持ち戻したものを「みなし相続財産」といいます。
申立人 :私は、遺産分割とは、被相続人が相続開始時に有した財産で、かつ、遺産分割時に存在する財産を分割するというものと理解していましたが、そうではないのですね。
調停委員:いえ。分割する財産は、申立人がおっしゃったとおりですが、具体的相続分(相続財産を金銭で評価し、その上で、遺産分割として受け取ることができる金額)を算定する際に、特別受益分を持ち戻すということなのです。
具体的に説明すると次のようなことになります。
例えば、遺産の額の合計が4000万円で、相手方が生前贈与を受けた不動産が1000万円だったとします。
もし、特別受益がなかった場合、相続分は、4000万円×1/2=2000万円ということになります(具体的相続分も同額となります。)。
しかし、相手方に特別受益があることを前提としますと、この特別受益分の1000万円を、遺産の4000万円に加え、1000万円+4000万円=5000万円を相続財産とみなして相続分を算定します。そうすると、申立人及び相手方の相続分は、5000万円×1/2=2500万円ということになります。そして、この場合の具体的相続分は、次のとおりとなります。
申立人が2500万円
相手方が2500万円-1000万円(特別受益分)=1500万円
このように、相手方に特別受益があることを前提としますと、申立人は、遺産から2500万円を、相手方は、1500万円を受け取ることになります。
⑹ 調停委員は、以上のようなことをホワイトボードあるいはヌーボードに書いて説明してくれる場合もあります。例えば、
みなし相続財産
4000万円+1000万円=5000万円
申立人及び相手方の相続分
5000万円×1/2=2500万円
具体的相続分
申立人 2500万円
相手方 2500万円-1000万円=1500万円
というようなことを書いて、説明してくれる場合もあります。
ただ、特別受益の問題は、実は、そう単純なものではなく、上記の場合であれば、相手方が被相続人から生前贈与を受けた不動産の評価(上記では1000万円としましたが)について、相続開始時で評価するのか、それとも、分割時における評価とするのか、また、その評価は、不動産業者の査定書で足りるのか、鑑定まで必要なのか等検討すべき事項は結構あります。
3 おわりに
今回は、調停委員と申立人とのやりとりを覗いてみましたが、次回コラムにおいては、調停委員と相手方とのやり取りを覗いてみたいと思います。
以 上