1 はじめに
~単身世帯の急増と「もしも」の不安~
日本の単身世帯は増加の一途をたどっており、2050年には全世帯の44.3%が単身世帯になると予測されています。いわゆる「おひとりさま」の老後は、誰にとっても身近な問題となっています。従来のように近くに家族・親戚などがおり、事実上、日常生活のサポートを受けられていた状況とは異なり、現在問題となっている「おひとりさま」は近くに家族・親戚などの身寄りがいないことが問題の本質となっています。
これまで認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な者に対しては、福祉サービスの利用に関する援助等を行うことにより、地域において自立した生活が送れるよう支援する事業として日常生活自立支援事業(いわゆる「日自事業」)が存在し、福祉サービスの利用援助(福祉サービスの利用・終了等のサポートなど)、日常的金銭管理サービス(年金や福祉手当等の受領手続や税金等の支払及びそれに伴う預金の払戻、預入など)及び書類等の預かりサービス(預貯金の通帳、権利証、契約書類など)を地域の社会福祉協議会が担ってきました。
しかし、判断能力が不十分ではない(要は、判断能力に問題のない)身寄りのない高齢者等は、上記日常生活自立支援事業を、制度上、利用できません(仮に認知症などで判断能力が不十分になったとしても順番待ちなどで日常生活自立支援事業をすぐに利用できるわけではありません)。
そこで、現在、判断能力に問題のない身寄りのない高齢者等は、老後等に備え、民間の事業者に依頼して、自らの生活支援を行うサービス(高齢者等終身サポート事業)を利用する例が非常に増えている状況にあります(そのような事業者の多くは老人ホームなどへの身元保証や死後事務委任なども事業内容としています)。もっとも、このような事業は主に一定の資産を有している方を対象にしていることが多く、決して安価な金額ではありません(しかも、明確な法規制もないため、悪質な事業者による消費者トラブルも多発している状況にもあります)。
そこで現在、厚生労働省において、民間事業者に頼れない場合でも誰もが安心して利用できる公的な仕組みとして、現行の日常生活自立支援事業を拡充・発展させた『新たな事業(第二種社会福祉事業)』を創設する検討が進められています。政府としても、令和8年4月3日、身寄りのない高齢者への支援強化を盛り込んだ社会福祉法などの改正案を閣議決定しています(令和10年4月の事業施行を目指しているとされています)。 今回は、この新しい国の公的支援制度の概要について解説したいと思います。
2 「新たな事業」の制度概要
~生活を支える3つの柱~
厚労省で検討されている「新たな事業」は、現行の「日常生活自立支援事業」を拡充・発展させ、身寄りのない高齢者等が地域で安心して自立した生活をし続けられるよう、生活上の課題を包括的に支援するものです。本人の意思に基づき契約を結び、ベースとなる「日常生活支援」に加えて、「入院・入所等の手続支援」または「死後事務の支援」の少なくとも一方を提供するパッケージとされています。
① 日常生活支援(地域生活の基盤となる支援)
地域で生活を営むために不可欠なサポートです。
- 定期的な連絡や訪問による見守り
- 日常的な金銭管理(一定額の預貯金出し入れ、公共料金や福祉サービス利用料の支払い)
- 通帳や年金・保険証書など重要書類の預かり
- 福祉サービスの利用援助(手続き支援など)
② 入院・入所等の手続支援
いざという時に、スムーズな手続きをサポートします。
- 入院・入所時、あるいは退院・退所時の契約への立ち会いや付き添い
- 病院や施設への緊急連絡先の提供
- 入院費用の支払代行
③ 死後事務の支援
ご自身が亡くなった後の煩雑な事務を、生前に準備・委任しておくものです。
- 葬儀(火葬)や納骨、家財処分の契約手続き支援および契約履行の確認
- 行政官庁への資格喪失手続きや各種証書の返却
- 公共料金等の利用停止・収受機関への連絡
3 誰が利用できる?
(対象者と利用料の仕組み)
対象者と契約
この事業は、判断能力が不十分な方や、頼れる身寄りがいない高齢者等であって、地域で生活を続けるために支援を要する方が対象です。本人が契約内容を理解し、判断する能力を有している段階で契約を結ぶことが前提となります。なお、「身寄り」となる家族がいても、関係性が疎遠であるなどの実情を考慮し、一律に対象外とはしない方針が議論されています。
無低事業としての位置づけと利用料
費用は原則として利用者負担ですが、お金に余裕がない方でも必要な支援を受けられるよう、利用者のうち一定割合以上が「無料または低額」で利用できる仕組み(無低事業)となる予定です。所得や資産の要件を満たす方には利用料が減免されますが、葬儀や家財処分にかかる実費相当額については利用者本人の負担となります。
4 実施主体と安心のための監督体制
新たな事業は「第二種社会福祉事業」として法律上に位置づけられ、多様な主体が届出により事業実施できるようになる方向です。そのため既存の社会福祉協議会だけでなく、NPO法人や民間事業者等の参入も想定されます。
大切な財産や死後の手続きを任せることになるため、消費者保護の観点から適正な運営が不可欠です。そのため、事業者は都道府県知事への届出が必要となり、知事による状況調査や、必要に応じた事業の制限・停止命令など、罰則も含めた行政の監督・チェック体制が敷かれます。
(参考)
5 おわりに
国の新たな事業がスタートすれば、身寄りのない高齢者にとって、入院から死後の整理までをカバーする非常に心強いセーフティネットとなるでしょう。ただ、現時点で「身寄りがない」という要件をどのように定義・審査するのか、事業者の監督方法、財源の問題など課題はたくさんあるようにも思います。
特に、この事業等で依頼できる「死後事務」と、財産の承継に関わる「相続手続」は全く別問題ではあるものの、両者は密接に関連していて、明確に切り分けることは専門家でも困難な場合もあります。例えば、葬儀やアパートの片付けは死後事務の範囲ですが、ご自身の残した預貯金を誰にどう渡すか、不動産をどう処分するかといった財産の行方は、遺言書等で法的に定めておかなければ、支援者であっても手出しができません。
おひとりさまの老後を真に安心なものにするためには、新しい公的な支援制度の活用に加えて、「任意後見契約」や「遺言書の作成」など、法的な生前対策をあわせて行っておくことがベストです。
虎ノ門法律経済事務所京都支店では、老後の財産管理や遺言の作成、相続に関するご相談を幅広く承っております。
ご自身の将来にしっかりと備えたいとお考えの方は、ぜひ当事務所の弁護士までお気軽にご相談ください。
以上
文責 弁護士 今井良輔